歯茎/
 
黒塗りの道端を歩いていた。

そこには銀杏の柔らかく包み込むような糞の薫りももうなく、
ただただ、寒かった。

ああ、歯茎よ。
ちょっとした気づかないコンクリートの段差で足を引っかけ気味に滑らせて、
そこまでエリンギが気になるのか。

寄せては返す波は暗雲に反射して黒塗りに蠢く。

それは、禿げた男の女に耳元で囁く様な貝の音に苛立ち、
叩きつける苛立ちとは似ていない。

ああ、むしろ、薔薇の薫りだ。何故なら薔薇の薫りはちょっとした悪臭であるから。


――人々は死んだように引き籠っている。
そこで各々爆発している。馬鹿だ。

そんな事が走馬灯のようによぎりながら、
あてのない漆黒(くろぬり)を歩き続けるのだろう。


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