遊迷樹/木立 悟
 




夜の廊下に
落ちている声
踏まずに歩けば
聞こえくる声


思い出せない
幸せな音
思い出せないまま
そこに在る


遠のく雷 遠のく虹
遠のく空 空
営みの笛
めぐる雨 置いてゆく震え


雹と霰が小鳥と謡い
足跡は足跡に溶け残り
窓の外の声
水たまりの曇と羽


雨の節々が
何も無い部屋に突き立ち 呟いている
次の水 次の光
次の季節を呼びつづけている


羽を忘れて遊んでいた
空はいつしか落ちていた
帰らなくていい
帰る場所は無い


夕方を見ず夜が来て
紅は朝まで水底で泣き
伝わらなさの紐を引き

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