詩の日めくり 二〇一八年六月一日─三十一日/田中宏輔
置いたのか、その理由は説明するまでもないだろう。(…)ぼくは弟に「席を替ろうか?」と言ってみた。(…)ぼくたちは立ち上がって、スクリーンに近い前のほうに席を替った。そのあたりにもやはりおとなしい巨人たちが坐っていた。振り返って老人の顔を見ることなど恐ろしくてできなかったが、とにかくその老人がとてつもなく巨大な体?をしていたことだけはいまだに忘れることができない。あの男はおそらく、年が若くて繊細なホモの男や中年のおとなしい男を探し求めてあの映画館に通っていたのだろう。
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』いつわりの恋、木村榮一訳)
二〇一八年六月十四日 「断章」
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