山頂にて*/ひだかたけし
わう。そのような人間はひとり言うだろう、創造の深層の上に直接建てられた、太古以来のこの山頂の祭壇に、一切の存在者の存在そのもののために、供犠を捧げよう、と。
私は今、われわれの実存のもっとも確かな発端を感じる。ここに立って、世界を、そそり立つ山並みやひらけた渓谷を、豊かな牧草地を眺望するとき、私の魂は自分自身を超え、一切を超えて高まり、天へのおさえがたい憧れを感じるが、しかしやがて焼きつける陽光が飢えと渇きという人間的な欲求を呼び返す。そうすると人は自分の精神がすでにそこを超越して飛翔していった筈のあの渓谷をふたたび求めはじめる。
*ゲーテ『花崗岩について』より
戻る 編 削 Point(7)