野性よ、削ぎ落された地平を/ホロウ・シカエルボク
お前は煤色の赤ん坊を抱いて
焼け焦げたアスファルトを裸足で踏みしめる
サイレンだと思っていたのはいくつもの悲鳴で
雨雲に見えていたのはなにもかもが
無に還ろうと爆ぜる努力の証だった
ようやくたどり着いた川面は
器に注がれた汁物のそれのようにぬるりと輝いていて
飲んでみると鳥の油みたいだった
上流でたくさん人が死んでいたのだと聞いたのは
しばらく経ってからのことだった
どれほど歩いただろうか
赤ん坊は手の中で崩れた
灰になって風に散らばっていった
しばらくのあいだお前は
まだ抱いているかのように腕を丸めていたが
重さがないのでだらりと下ろしてしまった
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