山道/山人
不思議であった
私の前にはいつも道があって
そこをしずしずと歩いている
ホウの葉とサワグルミの、落葉の上を
ソフトに足を進めている
まったくなんの期待もない山旅に向かったのだった
ただ、歩く
どちらかと言えば不毛でもあり、無益でもあった
しかし、それは義務ですらあり、運命だった
山道はとにかく、私が歩くのをやめるまで続くのだった
誰も居ない、孤独な山道には
いくつもの熊の糞が置かれていて
巨獣はそこで吐息を漏らしたことだろう
奇声を上げて私の存在を知らせる
漆黒の山の主はおだやかに瞑想を続けていたのかもしれない
泥濘を歩き、沢を何回も越え
とても私の足は疲れ始めていた
どこにも行けない、ぬるま湯のような感情が
消えそうな炎を呈して私の眉間にとどまっている
時代がのそりと動き始めているのだ
どうか私を置いていかないでくれ
やがて滑稽なアスファルトの車道が見えてきたのだった
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