コロッケ譚/平瀬たかのり
 
 行ったことも、きっと行くこともない都会の駅は
 そのことばで
 ジャックとやらをされたのだという

 〈今日の仕事は、楽しみですか。〉

 はい、わたしの揚げているこのコロッケが
 今夜見知らぬ家族の
 団欒の食卓にのぼるのならば
 心底やる気も出ようと言うものです
 がんばるぞ!
 とでも言ったなら、この先
 コロッケ揚げない人生が待っていますか?

 百八十度のフライヤーの中から
 ぷっかり浮かび上がってくるコロッケ
 キッチンタイマーが鳴り
 網杓を手に取る
 一日に幾度か思いだす
 もう会わない人のことをまた思いだしている


 タイムサービスの時間はもうすぐだ

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