痛みの在処/静
山と海の近い街
狭い世界で流れる河
自然に澄みきって流れていた
河岸では旅人が愁いの詞を
海辺では少女が愛の唄を
山奥では狩人が悼みの祈りを
人の想いが清流に溶け込み
また他の誰かに届けていた
不躾な輩が杭を打ち付け
ダムを作って流れを独り占めする
深く深くその河は抉られたが
作ったことすら忘れられて
淀みと溜まりは残ってしまう
河は街の人を愛していた
人の為す業を受けいれようとし
流れが喪われるのに目を瞑った
幾つもの紀が過ぎていった
もう河は元の形を留めていない
在りし日の姿を取り戻す為に
全てを無に期す雨を呼んだ
報いを受けた人々が恐れを為して
消えて行き河を忘れてしまっても
流れる心を損なう罪を差し置いて
その業を非難できるだろうか
正しい流れがまたできていく
穏やかな気持ちになるのが分かる
以前とは少しだけ違うけれども
また誰かに暖かさを届けれると信じて
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