長かった街で/番田
昔僕の会社に通っていた道を、今日は歩いていたのだ。近々、この街から引っ越すことを決めていたからである。その、引っ越す理由は、特にあったわけではないのだが、ぼんやりと僕は歩いていた。昔は、ほんの片時でさえ、ここでこうしている僕がいるということ自体を想像したことすらなかった。とにかく、あの頃は一日を生きていくことで精一杯だったからである…。当時あった店は最近、次々と閉店してしまい、その味は闇に葬られ、当時を懐かしむことはすでにできなくなってしまったわけだったが。僕はあきらめて、まだ行ったことのない店を探して、メニューがやたらと壁にはられていた個人経営の喫茶店に通いはじめた。またここに戻ってきた時には、
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