詩の日めくり 二〇一七年十一月一日─三十一日/田中宏輔
二〇一七年十一月三十一日 「電車の向かい側に坐っていた老人が」
電車の向かい側に坐っていた老人が
タバコに火をつけて一服しはじめた
といっても
じっさいにはタバコを吸っているわけではなくって
タバコを吸っている様子をしだしたってことなんだけど
タバコを吸っている気になる錠剤を
さっき口にするのを目にしたんだけど
それがようやく効き目を現わしてきたんだろう
老人はさもおいしそうにタバコを味わっていた
指の間には何もなかったけれど
老人の指の形を見ていると
見えないタバコが見えてくるような気がした
老人は煙を吐き出す形に口をすぼめて息を吐いた
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