帰り道には長ネギが顔を出した買い物袋を下げて近所を歩いている/ゼッケン
 
気代を0.1円単位で切り詰めて
10年間、旅をしていたんだ、パパは

家族のことは冷蔵庫がいちばんよく知っている
何があっても、いつもどおりに食べさせること
何があっても、不安にさせないこと
ときどきはこっそりと子供たちには内緒のご褒美が奥の方にしまわれること
家族がすこしだけズルいこと

あれ、アイス溶けてる
冷凍庫の中をのぞいたこの家の子供がこの家のママに言う
冷凍食品がすべて溶けている
おれは失敗した、息子に気を取られ過ぎた
仕事をうまくやれなかった
もう10年だもん、買い替え時だね
この家のパパが言う
もしかしたら、この家に来る新しい冷蔵庫はおれの息子かもしれないね
おれにも息子がいたんだよ、いままでありがとう、さようなら
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