詩の日めくり 二〇一七年七月一日─三十一日/田中宏輔
声をかけなかった。これが、ぼくが20代だったら、声をかけてたと思う。「きみ、かわいいね。ぼくといっしょに、どこか行く?」みたいなこと言ってたと思う。20代で、声をかけて、断られたの2回だけだったから。しかし、いまや、ぼくも50代。考えるよね。声をかけることなく、違う道を歩くふたりなのであった。しかし、息をつきながら、ぼくの目をじっと見つめてた彼の時間のなかで、ほんとうに、ぼくを見た記憶はあるのだろうかってことを考える。ただのオジンじゃんって思って見てただけなのかもしれない。だけど、ぼくはあの溜息に何らかの意味があると思いたい。思って眠る権利は、ぼくにだってあるはずだ。ああ、人生ってなんなんだろう。
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