壁のない家/凪目
背後には誰もいない
開け放した窓から雨が降りそそいだ
部屋には部屋がなかった
区切りのない家に不可視の声ばかりこだましている
迷宮ですらない
音楽を挿れたら違う生き物になる
誰も別人でなかったことなんかない
誰もが誰かの別人、
別人の別人、
なんだ
きみか
昨日、猫を見たんだ
ベッドの影に
部屋には僕しか住んでいないのに
秒針の音が消えた
誰かが電池を抜いて
たしか、昨日の僕が
十年前の僕だったかもしれない
明日の僕が?
取り込みたての服を、今、誰かが着て出てった
誰だったんだ?
読み切る前に荷物になった文庫、中身は公園の、砂場に埋まってた、
こぼれた
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