ユーラシアの埃壜/ただのみきや
 
競い合う


磔刑にされた愛人の心臓
下腹部に沈む太陽
ふれることも叶わず熱を吐き
木の根が暴れ荒らしまわる
夜が破れてゆく
繕っても繕っても


火のように鳴りあぐね
帯をほどいて崩れかかる
ゼラチン質の無言
けむりの肌に墨を刺す
不眠の嘲笑に似てゆく詩作


鍵穴に唇をつけてなにを囁くのか
草刈りの匂いに酔った午後
蔓は祈りハッカの額は捲れ
蝸牛は喘ぐ笛を欲しながら
書棚から身を投げる
アンソロジーの死体
希望のようなものが蓮のように
どこかで咲いたり閉じたりしている
青い地球は赤の他人だった


市松模様の上
言葉は齧り捨てられた鳩
パラソルの下
蜂に刺されながら蜜をなめる男にとって




                 《2021年8月28日》







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