アーケード/藤原絵理子
 

古い文庫本の背表紙に
張り付いて煎餅になった蚊の
周りに描かれた茶色い地図は
それを読んだ誰かの血


まだ賑やかだったころ
白い箱を置いてアコーディオンを弾いていた
片脚のない白い人が
きみは昔と変わらないな と言う


シャッターの見本市会場になった
ひと気のないアーケード街に西陽が長い
杖をついてゆっくり歩く老人の影も長い


入水心中した小説家の顔は
死んで転がった蝉を観る目で
机の端から落ちそうな万年筆を見つめている

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