夏の自称詩人/花形新次
 
鶴見川に沿った道を
ゲリラ豪雨の中
自称詩人が「わーっ!」と
叫びながら駆け抜けて行く
八月の狂詩曲の婆さんのように

しかし追いかけて来る家族はいない
家族それぞれは
自称詩人が溢れた川に流されて行くことを
静かに祈り続けている

自称詩人は何故
叫び、走っているのか?
自称詩人は
「奴等はもうそこまで来てるんだあ!」とか
「奴等の狙いは人類の鼠径部なんだあ!」とか
訳の分からないことを口走っている
とうやら何者からか逃げているらしい

やがて自称詩人は
濁流に巻き込まれるが
川の流れに逆らいながら
400m個人メドレーで上流を目指す
奴等から逃げ切る為に

「アレさえいなければ・・・」
家族の願い虚しく
自称詩人の夏は終わらない

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