工場跡/藤原絵理子
 
セピアにくすんだ壁が
「ゆっくり休んでいいよ」なんて囁く夢の跡
ゆがんだ窓ガラス越しに
今日の少女が自転車で駆け去るのが見える


遠い昔に透明だった心は
何度も重ね塗りして濁ってしまった
重かったスーツケースは
なくした夢の数だけ軽くなった


ふいに吹く風が
はずし忘れられた
軒下の風鈴をもてあそぶ


荒野をめざす青年はもういない
立て看板は消えて陰湿なSNSが残った
仮想空間が現実を食い荒らしていく

戻る   Point(2)