黒い手/ベンジャミン
僕のことを知らない
あなたはきまって
この公園で昼食をとる
いつからか
それは僕の習慣にもなってしまい
僕のことを知らないあなたと
会話をすることもなく
この公園で昼食をとる
春の日差しは
陽だまりを切り抜くように木の枝を地面に描いて
あなたの影はそれにくすぐられるように
小さく笑っている
僕は
そんなあなたに触れたくて
どうしても届かない距離を淋しく眺めながら
たやすく触れられる枝先を羨んでいる
目の端では
けして合うことのないあなたの視線が
足元の影に向いていることを
とらえているのに
僕は
風に揺れる木の枝にそっと手を伸ばす
僕のことを知らない
あなたの影は
気づくこともなく
僕の手のひらを受け止めている
春の日差しを遮るように
触れることのない手が
あなたのほほに触れている
戻る 編 削 Point(8)