欠けた蟹/
asagohan
一つ欠けた
七本足を交互に繰り出し
ふわついている胴体は
地べたの感覚を知らないだろう。
ボウルを走る小さな爪音は
また繰り返し
中央に滑り落ちる。
つまみ上げ
逃げさる蟹は
もう大丈夫だと踵の影に隠れた。
釈迦の掌を駆ける孫悟空の話を
私は思い出す。
前触れ無く
船が海に向う。
小さな川は真っ二つに割られ
産まれた
大きなうねりは
足音も爪音もたてない
不気味さがある。
目の前で波が弾けて
岸には私と濡れた靴だけが残される。
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