サーカス2021東京/妻咲邦香
 
窓を開けてくれたその人は
次の駅で降りていった
半年ぶりの得意料理
一人の部屋で一人で食べる

サービスチケットの期限が切れて
空中ブランコに並ぶ人の列
容器代込みで思い出を持ち帰る
まだ開いてるお店を探して
仕事帰りの人の群れ
すれ違う急ぎ足
どうぞお先に
紛れて並ぶ道化師に
誰も気付かない
いえそちらこそお先に
どういたしまして
ありがとう

開演時間までに新メニューを考える
たったひとつでいいんだ
今日を迎えられた証しに
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
どれだけ時代に逆らえど
変わりはしないスパイスの
効き目とその香り
次の電車を見送る
乗ると決めた車両は当駅止まり
押し出されるマスクの波が
感動の拍手に包まれて


戻る   Point(0)