越境者/ただのみきや
 
 控え目なやつ
ちょっと可愛い気もする
その時点でもうだめだろう
終りまで放っておくしかない
たった数日のことと思ったが
翌日にはもう見なかった
窓辺か照明の縁か
でなければ本棚の裏辺り
夏生まれは夏が好き
自分にしか当てはまらなくてもそう思う
いのちが溢れ
いのちが繁り
わっさわっさと生まれては
ばったばったと死んでゆく
生は死によって完了し
物質は分解されて循環し
異界や輪廻に人は片思いのまま
だが季節は変わらず生と死の
祝祭と祭儀を繰り返す
ひとつの元型を保った
演劇として
伝統芸能として
草木や鳥や虫たちは遥かに代を重ね
洗練を極めている
古の賓(まろうど)は忘却の彼方でも
夏にはどこか曖昧な
合理的でも理性的でもない影が
蚊飛症のように正気を過る
生死を越境したささやきが
届きそうで届かない
水底の灯火に群れている



              《2021年7月18日》







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