越境者/ただのみきや
 
墓地と少女と蝶と

墓地を巡って柵を越え
黄色い蝶が迷い込んだ
少女の額にそっと
押し当てられる口形
珠になってこぼれて落ちた
奏できれない音色のしみ


夏の墓地はここちよい
見知らぬ少女と仲良くなって
いっしょに四つ葉をさがしていた
見つけるまでは帰らないと
日が暮れるまで頑張って
すっかり暗くなったころ
探しに来た父親に叱られて
連れ帰される その時
少女の姿はすでになく
顔もぼやけて憶えてないが
おかっぱ頭のかわいい子
夏の墓地は甘酸っぱい

数十年ぶりに訪れた
墓地では風が一面のブタナを揺らし
黄色い蝶が墓石の間を巡って
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