暗い道/佐々宝砂
 

 女頭の蛇は顔色変えて光に向かって息を吹き、
 光は一瞬暗くなったが、
 勢いを取り戻して蛇を焼き尽くし、
 女蛇の断末魔。しかし音は一切きこえない。

ああ、思い出したよ。
思い出したよ。
そうなんだ、
そうなんだよ。
山がくらりと焼け落ちるねえ。
おんなへびも燃えてゆくねえ。
ありがとう。
ありがとう。

 山の向こうほのぼのと光がみえ、
 地を照らし、旅人を導き。
 それはやがて小さいが確かなひとつの灯りとなり。

かあさん、
待っていてね。
もうすぐ行くから。

 暗い道で、老女が古鍋のなか木ぎれを焼いている。
 夏の夜はまだ浅く街の喧噪が遠くきこえる。
 皓々と明るい玄関の戸がからりひらき、
 続いて「かあさん、俺も迎え火を焚くよ」と、
 壮年の男の声がする。

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