すすき野原で見た狐/板谷みきょう
る影も無くなっておりました。
与一は、社の前でひとしきり佇んでおりました。
茜とんぼが、つーいつーいと飛び交っておりました。
空にたなびく薄い雲が、紅いに染まって風にゆっくりと流されて行き、心なしか男の背中は、微かに震え、頬は濡れている様に見えました。
それからしばらくして、村の中央で叫ぶ与一の姿がありました。
「わしは長い間、方々の村や街を、旅して回って来た。けれど、どこの貧しい村々も、ここよりはずぅっと、ましな暮らしだった……。みんな、聞いてくれ……。わしは、この村に食べる物を、持って帰って来たんだ。これを見てくれ!これは、ジャガタラと言う食べ物の種だ。これで、この村も飢える事
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