すすき野原で見た狐/板谷みきょう
 
すきの葉かげからこっそり覗きこんだ後に、顔をひとこすりしたのでありました。それから、ひらりと身をひるがえしたかと思うと、その姿はもう何処にも見当たりませんでした。
 そこはもう、年寄りばかりが目に付く村でありました。
その事に気付いた男は自分も又、食うや食わずの暮らしに耐え切れず、村を捨てて、逃げ出していった若者の一人であった時分を思い出しました。
男の名は、与一と言いました。村はずれにある稲荷神社の一人息子として生まれ、かつて、跡取りとして、大事に、大事に、育てられていたのでありました。
 お稲荷様の社は、雑草がボウボウと生い茂っており、寂れ果て、今では誰一人として訪れる事がなく、見る影
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