そしておそらくはそれだけが在ることにより/ホロウ・シカエルボク
 
持ち上げようとしていた、しかし、それは少しも動かなかった。釘を打たれたのかもしれない。瞬間的に存在する釘、と俺は考えた。人の心を葬るのにこれほどのものがあるだろうかと。そうしてムキになって蓋を蹴飛ばした。何度か蹴飛ばしていると次第に動くようになってきた。いいぞ、勢いづいて追い打ちをかけた。やがて蓋は横に落ち、音もなく消えた。おそらく消えたのだ、現れた時と同じように。コンクリの床に這い出し、たった一つの出入り口に向かって走った。床に点々と血が落ちていった。手のひらが切れているようだ。中々の裂傷のようで、実に鈍い痛みを立てた。確認は後にして、入口に体当たりした。何度目かに凄い音がして、ガラス戸の欠片とともに俺は外に投げ出された。そこは普通に人の流れがある歩道で、近くのコンビニから出てきた車の運転手が驚いた顔で俺を見た。俺は左手で顔を拭った。どろりとした感触が顔を襲った。手のひらを眺めてみると中指の下から小指の付根にかけて酷く切り裂かれていて、そこにだけはきちんと赤い血が存在していた。

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