沈黙の語り部/塔野夏子
 
君はその身体に
神話と寓話とを
ありったけ詰め込んで
旅立つよりほかなかった
君が旅するほどに
君の身体の中でそれらが育つので
君はいつも張り裂けそうだ
君の身体から
抑えきれず放たれるそれらの香り
に 惹かれて立ちどまる人があっても
君はそれらを語りはしない
語るべきものではないと
知っているからだ
君はただ旅をして
身体に詰め込んだ神話と寓話を
誰にも明かさず育てつづけなければ
ならないのだ
やがて君の身体からそれらがひと息に芽吹いて
誰も見たことのない花をあふれ咲かせるまで



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