蜃気楼に傷口/ホロウ・シカエルボク
 
ずっと空には黒雲がなにかもの言いたげに留まっていて、人々はイラついたり細やかに絶望したりしながら生きている、雨でも晴れでもやつらがやることなんかそんなに変わりはしないのに、俺はカッターを取り出し、ソファーの革張りを切り裂く、綿や、木材の欠片が飛び散り、床に散乱する、まるで不器用な血液のように、俺は道化師のような笑みと殺意を持ってそれを執り行う、休日の午後が切り刻まれて散らばっていく、あまり気に留めるなよ、詩人はいつだって種をばら撒き過ぎる傾向があるものだ、狂気じゃない、それは日常と同じものだ、そして日常よりもずっと、したたかな意志を持っているなにかだ、「ザ・ウォール」っていう映画、観たことがあるかい?俺はいま、それに近いなにかについて話し続けているんだよ、なあ、俺は出来ることなら意志をもって壁を築きあげたい、時は心臓を削りながら一刻、また一刻と過ぎていく、俺は概念の血に塗れながらまた新しい死の中で薄ら笑いを浮かべている。

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