群集挽歌/岡部淳太郎
人間
信号の前で
電柱の並木道の中で
ひとことも語らず
すべての物語を脇に追いやって
時に止まり
時に急ぐ
君たちはまぼろし
まぼろしである君たちの
誰の名前も僕は正確に知ることはない
君の名はヒロミ
君の名はテツオ
君の名はケイコ
君の名はユウスケ
それはみんな間違った名前であるのかもしれないが
無名の呼吸にたえられず
君たちに
ひとりひとりに名前をつける
そして誰もが笑い
そして誰もが泣くだろう
たったひとつの
決められた名のもとで
ふらふらと
さまよう
群集として
そのひとりとして
誰もが違った場所にあるだろう
誰もが同じ場所を通るだろう
ふらふらと
さまようのか
この僕も
僕の名は
いったい何か?
(二〇〇五年四月)
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