窓のエピソード/塔野夏子
 
ある人から
窓をもらっていたことを思い出して
とりだして開けてみた

窓の向こうは
地平線まで何もなく白い地と
日も月も雲もない白い空

ふとその地平線に
何かの影があらわれた
だんだん近づいてくる
それは個体ではなく群れ

みるみるうちに近づいてきたそれは
わたしの群れ

あっというまにわたしの群れは窓へ押し寄せ
そしてわたしを通過していった――

   いつしかわたしは
   一面の白い地に
   いくつもの黒い穴を掘っていた
   いつか息絶えるわたしの群れ
   そのひとりひとりのための
   墓を掘っているらしかった

   窓は中空にかかっていた
   その向こうには何も見えなかった



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