詩の日めくり 二〇一六年十月一日─三十一日/田中宏輔
人が
そばを通った
よく見ると
どの席にも
犬がたたずんでいた
ぼくはひとりで帰った
二〇一六年十月十三日 「きょう、母さん、死んだのよ」
帰ってすぐに
実母から電話があった
「きょう
母さん
死んだのよ」
「えっ」
「きょう
母さん
車にぶつかって死んでしまったのよ」
気の狂った母親の言葉を耳にしながら
お茶をゴクリ
「また何度でも死にますよ」
「そうよね」
「またきっと車にぶつかりますよ」
「そうかしらね」
母親の沈黙が一分ほどつづいたので
受話器を置きました
母親も病気なのですが
ぼくよりもずっと性質が悪くて
悪意のない
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