詩の日めくり 二〇一六年九月一日─三十一日/田中宏輔
 
八日 「言葉についての覚書」


 ある書物のあるページに書かれた言葉は、その書かれた場所から動かないと思われているが、じつは動いているのだ。人間の頭がほかの場所に運び、他の文章のなかに、あるいは、ほかの書物のなかに運んで、もとの文脈にある意味と重ねて見ているのである。そうして、その言葉の意味を更新し拡張しているのである。しばしば、時代の潮流によって、ある言葉の意味が狭められ、浅い薄っぺらなものとされることがある。これをぼくは、負の伝搬性と呼ぶことにする。人間にもいろいろあって、語の意味を深くし拡げる正の伝搬性をもたらせる者ばかりではないということである。


二〇一六年九月二十九日 
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