深い夜の砂漠/ホロウ・シカエルボク
歩いたのはどれくらい前のことだろう、とふと考えた、大人になってからはもう何年もそんなことをしていなかったように思えた、もしかしたら、幾つかの出来事を忘れているだけかもしれない、一度記憶に不信感を抱くとそんな考えが当たり前のように頭をもたげてくる、そのままこだわらないで歩き続けることも出来た、けれどなぜかどうしてもそのことについてはもう少し考えたかった、砂上に座り込んで、脳味噌の中を掻き回した、やがて俺の身体はさらさらと砂のように崩れ落ち、それまでそこにあったものたちとなんら変わらないものになった、ほんの一瞬、ささやかな風が吹いて、底に誰かが腰を下ろしていたかもしれないと思えるような小さな窪みも初めから無かったかのように消え失せていた。
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