事情/ゼッケン
 
死体を埋める場所は昼間に
下見をして決めていた
夜、
スコップを担いで暗闇の中
斜面を
登る 腐葉土
というのだろうか
柔らかい土に足の裏がいくぶん
沈む
懐中電灯に紙の筒を被せた
不用意な光が
注意を呼ばぬよう
光の輪は細く絞られている
それで、おれは気づかなかった
すぐ耳元で声がした
死体ですか? 埋めるんなら、ここに
おれはとっさに小さな光の輪を声のした横の木に向ける
木が喋りかけてきた、そう錯覚した
直径10センチ足らずの輪の中に生白い肌が夜の闇に切り取られて浮かび上がる
細かく上下左右に光を移動させると露出した男の下半身
横向きの臀部、前面は木の幹
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