振り返らずに進めばいい/ベンジャミン
 
戻れないないからこそ
進もうと思えるのかもしれない

そんなことを考えながら
横断歩道で信号が変わるのを待っていた
怯えた顔の仔猫が
不安そうに鳴いている
信号の色は青に変わっているのに
渡れないまま
自分よりもはるかに大きな人の
脚の間で鳴いている

もしかしたら待っている仲間がいて
ひょっとしたら今も待ってくれていて
その匂いを
感じているのかもしれない
鳴いても縮まらない距離は
ほんのわずかなはずなのに
どこまでも遠い

そうしているうちに
青信号は点滅をはじめてしまった
仔猫は
まるでその意味を知っているかのように
人波の中を走り抜けてゆく
振り返ることなく
小さくなってゆくはずの後姿を
大きくうねらせて

僕は
赤に変わった信号を見上げながら

次の青信号で必ずわたろうと思った

   

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