夏とクジラの話/投稿者
 

夏を



 あ


が降る

音楽にからだをあずけて
彼女は踊っている

もう逢えないのかな、と
哀しいきもちになったけれど
泣くことだって悪くないと思えた

聞こえないように
小さな声で
ありがとう、って言ったら

時間が止まった







彼女は言った。

「クジラは空を飛ぶ魚だよ」

ふたりで見上げた空は灰色で、何も見えなかった。

僕はいつまでも覚えているだろう。
いちどカチッと止まった時間、あのときを。



ふたりとも頭からつま先までずぶ濡れだった

 クジラなんて、いないじゃないか!

って叫びそうになった

きっとあのとき僕らは
クジラのおなかの中にいて
空を飛んでいたんだ

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