夏とクジラの話/投稿者
夏を
*
あ
め
が降る
音楽にからだをあずけて
彼女は踊っている
もう逢えないのかな、と
哀しいきもちになったけれど
泣くことだって悪くないと思えた
聞こえないように
小さな声で
ありがとう、って言ったら
時間が止まった
*
彼女は言った。
「クジラは空を飛ぶ魚だよ」
ふたりで見上げた空は灰色で、何も見えなかった。
僕はいつまでも覚えているだろう。
いちどカチッと止まった時間、あのときを。
*
ふたりとも頭からつま先までずぶ濡れだった
クジラなんて、いないじゃないか!
って叫びそうになった
きっとあのとき僕らは
クジラのおなかの中にいて
空を飛んでいたんだ
戻る 編 削 Point(4)