夏とクジラの話/投稿者
彼女は言った。
「クジラは空を飛ぶ魚だよ」
その通りだと思った。
*
恋をしていたのか、と聞かれたら
そうだ、と答えるだろう
けれど、恋を引き算したところで
クジラは昔からずっと、空を飛んでいるのだから
魚にちがいなくて
彼女の声は分厚い空にとけて
あ
め
みたいに僕を包む
それがあまりに幸せで
世界に隠された真実
そのひとつを見つけたと思った
*
あのころ僕は
夏になればクジラが飛ぶんだと思っていた
本当はさかさまで
クジラが夏を運んで来たんだね
力いっぱい飛んで
空を泳いで
泳いで
夏
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