道化人形/板谷みきょう
まするは、当サーカス自慢の道化師。昨日の涙を笑いに変えて。アクロバットをお届けいたします。それでは、どうぞ―。」
誰も居ない箪笥の上で、月の拍手が嬉しくて道化を始めたのでした。
今までにない位の、後ろ回りと逆立ちの連続披露です。
後ろ回り、逆立ち、後ろ回り、逆立ち…
月は、笑い続け、惜しむことなく、拍手を送っていました。その間にも、段々と月は、窓の端へと移っていきます。人形は、お道化たままで、後ろ回りと逆立ちを続けていました。それ程、人形には月の拍手と笑いが、嬉しかったのでしょう。
ガタン!!
大きな音がしました。
人形が箪笥の上から落ちたのです。
腕は取れ、首がもげ、人形はバラバラになってしまいました。
人形の幸せは、なんと短かかったのでしょう。
もう月は窓から消え、枠の外に移ってしまっていました。
きっと、何も知らずに月は、また、
明日のこの短いひとときを、楽しみにしていることでしょう。
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