鬼/板谷みきょう
ざして、大声出せば鬼だって追い込まれるもんだ。
白髪の腰まで届く、顔すら隠れるざんばら髪。
難なく捕らえたことに皆、誇らし気だったが、内心はドキドキだった。
なんせ、恐ろしい人食いの鬼なんだから。
その日の夕暮れ、竹矢来の中で、与一が鬼の首をはねるというので、村の者が集まってきていた。集まらん者は誰もおらん。竹矢来は、今にも倒れそうな位だ。
鬼はと云えば、やけにおとなしく、ペタリと地べたに座り込んでいる。山奥で見た時とは、打って変わって、やけに小柄に、やせ細って見える。後ろ手に縛られ、夕陽を浴びた鬼の背は、それは、それは、小さかった。
与一の刀がひと振りされる。
朱に染まって首が飛ぶ。
その時の村人たちの顔は、美しいほど明るく輝いていた。
それは長い間、胸に潜む恐ろしさが消える喜びだ。
歓声の中、首がゴロンと地に落ちた。
その時の与一の叫びは、今も、村人の耳にこびりついて、離れないだろう。
奥深く、谷々から山々をこだまし、大きく響き渡った。
おっかぁ―!
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