詩の日めくり 二〇一六年六月一日─三十一日/田中宏輔
、独身者たちが大いに騒いでいた。自分の酒の量を知らない者がいて、気分が悪くなってソファにうずくまる者もいれば、はしゃぎすぎて、周りの人間が引いてしまう者もいた。わたしはマンションを見上げた。バルコニーで、男が何かを拾おうとして身をかがめた。女が彼に抱きつこうとして虚空を抱き締めて落ちてきた。わたしの到着とちょうど同時に、わたしの足元に。わたしは、いつも必要な時間にぴったりと到着する律儀な死神なのである。肉体から離れていく彼女の手をとって立たせた。裁きの場に赴かせるために。
二〇一六年六月二十二日 「内心の声」
授業の空き時間に、ハインリヒ・ベルの短篇「X町での一夜」「並木道で
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