ショートストーリー/空丸
 
鏡の中に


  日々の物語


大海原は苦手だ。
小さな滝壺を庭にしてひっそり暮らした。
時々、「見晴らし岩」に座り、遠くを眺めた。

渡り鳥のような大空は苦手だ。
見捨てられた小さな神社が裏庭だった。
時々、「千年杉」の枝から遠くを眺めた。

前人未到の山頂は苦手だ。
人里から小さい山を三つぐらい越えたところが遊び場だった。
時々、里まで降り、目を光らせた。

河童と天狗と鬼は、いつものように朝を迎えた。


  伴奏


辿り着こうとする列に並ぶ。荷車を引く老婆が言った。
休もう
いろんな記憶を傍らに置いて汗を拭く。伴奏のようにありふれた空が広がっていた。

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