四十年前のこと/板谷みきょう
 
つかれたようだった

おっちは図体の大きなダウン症で
関心を引きたくなると
店の物を盗む振りをした

「おっち。ダーメ。」と言われて
笑みを浮かべる

ふみちゃんに
「山に行こう。」って言うと
意味深で
ちょっといやらしい笑みを浮かべ
恥ずかしそうに
『そんなことを言わないのっ。』と叩く

ボクは、山奥の知的障碍者施設で
八人入居の職員寮に一人で暮らし
生理的欲求すら昇華すれば
高次欲求となり
自己実現できると信じてた

園生と一緒にご飯を食べて
お風呂も一緒に入ってた

「人格尊重を損なう恐れがあるから
あだ名や愛称で
利用者を呼ばないように」なんて
言われてなかった頃

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