四十年前のこと/板谷みきょう
大ちゃんは
いつもエプロンをして
前歯は二本抜けていて
何も聞いても
「ゴーオッ。」としか話せなかった
「大ちゃん。おはよう。」
『ゴーオッ。』
「今日は、何の作業するの?」
『ゴッ。ゴーオッ。ゴウッ、ゴウオ、ゴーオッ。』
「ふーん。でも、何、言ってるか分かんないよ。」
大ちゃんは
満面の笑みを浮かべて
『ゴーオッ。』
どっちゃんは
跛行で涎をたらしてた
時折、園内を歩いてると
突然、立ち止まり
シュッと右手を前に突き出し
手首を
左右に振る奇妙な仕草をする
その時に、声を掛けても
指の先を凝視して
何かに憑りつか
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