sonnet/朧月夜
やもめ男の住んでいるアパートには、
一人のヴァイオリン弾きが暮らしていた。
そのヴァイオリンの音(ね)は、
いつでも素晴らしいのだけれど、ヴァイオリン弾きは、
いつでもエチュードだけを奏でているようだった。
夜のしじまに、低いメロディーが木霊する。
それは月夜を越えて、飛行場を越えて、
どこか遠くの外国にまで伝わるかのようだった。
やめも男はその音色に聞き惚れ、また、
ヴァイオリン弾きと親しくなりたいとも思っていた。
そうすれば、彼の孤独は癒されるように感じられたから。
夜の巷では、猫たちが例の集会を開いている。
ヴァイオリン弾きの音楽に乗って、ワルツを踊っているように。
今夜もまた、どこかに音楽は消えていくのだった。
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