底のない浜から/アラガイs
無いものと思え。ふと、透明な影が指して
そういえば崖の淵には宮殿のような白亜の建物が内海を見下ろしていたはずだが、 ( トルル トルルウ ) ママ〜誰か来たよ〜
深々とした厚みのあるソファで脚を組み、物思いに耽っていた黒い夫人が立ち上がる。 立ち上がると夫人はテラスに出て浜を眺め、潮風の、それは空耳だと確信した。
小石を拾うと後ろから振りをつけておもいきり投げつけた。材木が積まれた空き地に向けて、100yardくらい小石は飛んでいっただろう。
田が埋まり、畑はアスファルトに固められ、崩れ欠けた防波堤の下、ハマナスが咲いた季節にも春はやって来ていた。
引き合う電線の面影と、向かい合う住宅の壁は波に消されて、
丸く、虹の翼を持つ灯りに支配された空の闇。喜三郎と米蔵が獣臭い鼻をつつき合う。
せめてもの救いは誰も居ないことでしょう、と暗喩に装い雲が語りかけてくる。刻は何を比喩するものかと。
いまも下水道は流れて、すぐにでも大地が動きだそうとしている。貝殻は羽根のない鷺を着る。
忘却と、海の底は帰る場所を探している。
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