ネノラク/道草次郎
 
竪琴がある。
竪琴とは複雑なあなたとわたしと、それから春の優しい鳥と。

風がある。
なぜ、風が惑星の裳裾(もすそ)をかゆそうに笑いながら縦走するかは、誰にもわからない。

竪琴を納める墓穴という空間と、風という経過を宥める時間と、それらがともにリズミカルにのたうつ無底の揺動とが有る。

現今は最果ての刻(とき)と溶融し合う。
一切が統一を忘失しつつ、そうでありながら、統一に取り込まれている一切の形骸がそこには坐っている。

竪琴は置かれ、風は走る。
それで、何が起こるというのだろう。
それは、解答ではなく問いとして現象展開する一つの大渦潮(メイルシュトローム)。

掻き鳴らす幾本かの偶然の為に世界は沈黙する。
振動し、伝播される花粉めいた魔術。
必然のつばきをのむ、外耳。

竪琴と風と、その他諸々。
宙(そら)に張り巡らされた蜘蛛の糸に煌めくしずく、ありかけの月にかかるもや。

生まれながらに老成の音律(しらべ)。
其れを、人は音(ネ)ノ樂(ラク)と呼ぶ。


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