一人の子供が木を見上げている/六九郎
 
一人の子供が木を見上げている

緑と黄色と赤と茶色とそれぞれの濃淡
一枚一枚の葉の形
重なる葉の間から漏れ注ぐ眩しい光
微かなにおい
風の鳴らす音
そよぐ枝のランダムな動き
鳥や虫やその他数えきれない生物とのやりとり
あまりにも複雑なディテール
子供はいつまでも木を見上げている

一人の大人が子供に字を教える

横縦左右
1234
4画の漢字
これが木
あまりにもシンプルな線
4本の線で木になり
木が集まれば森になる
エアコンの効いた教室の青く輝くディスプレイの中に点滅する黒いドット
変化のないドットを見つめる子供の変化のない瞳

文字を覚えた子供は歩くのが早い
いちいち木の下で立ち止まらなくても済む
これも木あれも木ただの木
どんどん歩いていける
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