忘却の河/朧月夜
 
される。(神々はけっして戯遊(あそ)んでいるのではない。しかし──、)ついと流れる涙が頬を伝うときに、酷薄な神らは、むしろそれを見まいと努めるだろう。神々の時と人の時とを触れ合わせて。だから……彼女は無言のままで頤(あぎと)を上げ、礼賛しなくてはならない……。彼女の求めるものも、彼女の求めないものも、畢竟そこにはないのだが。

 折り重なる屍の意味よ、それらがそっと彼女の頤を引き上げ、空へといざなう。「誘い」は、深紅の炎のように彼女の心を焼いて、裸身のままの心に降りかかる。ああ、その哀れを、おまえたちは見ないか。

 それらを河と言うなら、それらは揺らめく炎の大河なのだ。身を、心を、焼き尽くす。……無邪気にも微笑む彼女に、慈愛は落ちただろうか──わたしは知らない。ただ、無常の鐘が鳴るのみだ。
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