忘却の河/朧月夜
 
 彼女が問うそのやわらかな言葉にわたしはと惑う。

 その刹那、その物腰、その唇の動き。私の目からは隠されている、それらの上に──彼女は、とても重い。母よ、すべての者の母よ、すべてを失くしたあなたの上には、あなたが捨て去ったものと、あなたを顧みないものとの堆積が厚く、渦を巻くかのように垂れこめている。それを、彼女は見なくても良いのだ。見なくても良かったはずなのだが、やがて見上げようとするだろう。なぜなら、それは空と一つながりの層なのだから。天から人へと降りる階段、その一段々々を登って、人は再びどこへ行こうというのだろう。意味も音感をも越えたところから、さながらマリオネットのように彼女は差配され
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