詩の日めくり 二〇一五年十一月一日─三十一日/田中宏輔
 
くるのだ。

 奪うことは与えること。奪われることは与えられること。与えることは奪うこと。与えられることは奪われること。若さを失い、齢をとって、健康を損ない、うつくしさを失い、みっともない見かけとなり、若いときには知ることのなかったことを知り、そのことを詩に書くことができた。

 ぼくが天才だと思う詩人とは、遭遇の天才であり、目撃の天才であり、記述の天才である。遭遇と目撃は同時時間的に起こることだが、遭遇と目撃から記述に至るまでは、さまざまな段階がある。さまざまな時間がかかる。ときには、いくつものことが合わさって書かれることもある。何年もかかることもある。

 純粋な思考というものは存
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